物語を捨てていく

「物語を生きるな」という言葉を見てからというもの

生活の中でも音楽を作る中でも映画を見る中でも

妙にその言葉が引っかかって心の隅っこに存在していた。

 

私のように普通の人間だが普通の生き方をしてこなかった人間にとって

この言葉は必要なものだった。

 

自分の作り出した物語を捨てていくということ。

それは幻想だから。まやかしだから。

物語はロマンスであり心酔しやすい。

娯楽として味わう分には良いものだけど

知らずそれに支配されてしまうと

現実の中を生きてるようで虚構の中を生きることになる。

自分の物語の中が現実だと思い込む。

そこから正気になるのはなかなかに易しいことではない。

 

「自分には信じているものがある」

無意識にもそういう気持ちが強いほど

物語に足をとられやすくなる。

 

物語の世界の中で苦しみを味わう。逆境を味わう。

その先に自分の信じた希望の光が存在する、かもしれない。

そんな気がするほど物語から抜け出しづらくなる。

現実を生きてるようで生きていない状態。

 

「これが私なんだ」「これが私の音楽の肝なんだ」

そう思っていたものを捨てていく。

それは私の物語の中で必要なものであったが

現実の私には重いだけだった。

 

自分が大事だと思っていたものを捨てていく。

痛みはなく妙に清々しい気持ちになる。

それを捨てても私がいなくなることはないから。