25時45分
彼女は
14号線を走っていると
少し先を走る電車を見つけた。
闇の中を走る車内の灯りが
まるで夜空を駆けていてもおかしくないほど
幻想的だった。
その電車に目を奪われたまま
彼女のアクセルを踏む力は弱まらず
気づけば90キロを超えて
そのまま道路を外れて電柱に衝突して
民家の壁を壊して
その家の壁にめりこんでようやく止まった。
スローモーションで
飛び散るフロントガラスは
緑 黄 赤と
信号の変わる色に染まりながら
彼女の頭の中では
子供の頃に遊び疲れて寝てしまい
家族が夕飯を食べている
その匂いと母親の笑う声で目を覚ました。
苦しみは渦中ほど胸をえぐるのに
幸せはなぜ遠のいたあとで知るのだろう
遠くから聞こえる救急車の音が
ぼやけて優しく感じた。
壊れたコンクリートの横に
名もわからぬ草が風に揺れて
彼女を見下ろして
まるで何かを伝えているようで
それをずっと眺めていた。