十一月一日。晴れ。
表層で笑ったり泣いたりしている。
その地下にある孤独ともいえる
誰もいない部屋にある椅子に
深く腰掛ける。
この部屋が私は昔から嫌いだった。
何かを掴みたくて走っていた。
私の居場所を探していた。
意味や結果を求めていた。
それはどこにあるのか
手にしたものも何か違う気がした。
どこか無理して作られたもののような結果
無理して作られたもののような環境
というような違和感。
そしてある日を境に
それらが幻であると悟った。
私の求めるものは求めていた場所にはない。
はじめからなかった。
認めたくなくて
種を蒔いて必死に育てた。
ひ弱に曲がったままできた果実。
心細そうな花びら。
その全てが出来あがってみれば愛おしく
同時に歪んだ成果物であると悟った。
この状態にあっては
どんなに気候に恵まれても
どんなに質の良い種でも
満足に足るものは出来ない。
土が悲鳴をあげているから。
私は暫く手を休めて呆然とした後に
自分の背負っていた荷物を下ろした。
私は私にもう期待していないと言った。
それは
もう虚勢を張らずにすむことと同義であった。
着ているものを脱いで裸になった。
ずっと横に置いてあったパンドラの箱を開けた。
今なら開けて見られるような気がしていたから。
認めたくないこと 見たくないものが
勢いよく毒のように飛び出した。
はじめは身構えて目をきつく瞑っていたが
暫くしてよく見てみると
その毒物はゴム製で出来ており
私の体どころか心も傷ついてはいなかった。
そして気がつくと箱の中身は出尽くしていた。
私は長い間 何を恐れていたんだろう。
拍子抜けするとともに
恐れは人を不自由にさせる事を学んだ。
種蒔きを一休みした私の旅はまだ続く。
地味な見た目とは裏腹に
目にするものは新鮮なものばかりだった。
そうすると不思議なことに
種蒔きをやめた土地には
豊富な養分が生まれていた。
それらは豊かな土壌となって
種が蒔かれる日を心待ちにしているようだった。
この土地は死んでいなかった。
言葉が溢れる。心に深く酸素が取り込まれる。
言いたいことが溢れてくる。
全てのものが吸収されて栄養に変わる。
早くこれを形にしてと急かす気持ちと
満たされた気持ちが重なり合う。
この旅は地下にある部屋から始まった。
いらないと遠ざけていた場所が
私にとって必要な場所だった。
ここに全てのものごとは集約されて
醜いものも美しいものも
濾過されて作品となって出てくる。
ここが全てのはじまりの場所。