品行方正な人々の欺瞞。

久しぶりだね。

思ってもいないことを口走って後悔する癖は直ったかい。

僕は今日も歩く道のりについて考えていたよ。

僕の見る青空と

僕が飛べずにいる地上に挟まれて。

僕は最近、17年前に戻ったような気持ちになるんだ。

かといって、まるで戻ったとは思っていないよ。

時代は繰り返すといえど

螺旋階段のようにぐるぐると

少しずつ高さは変わっているんだ。

ちょうどその階段から見下ろした位置が

17年前だったといった方が適切だろうか。

こんなに自分が自分でいられる心地は

僕の中では初めてじゃないかな。

僕は今、片一方ではひどく絶望していて

けれど片一方では今までにない幸せを感じている。

この不思議なバランスを

なんと表現したら良いだろう。

君は鴨居玲という画家を知っているかい。

彼は人前ではいつも明るく笑顔をたやさなかった。

けれど彼がキャンバスに向かう時は。

それは彼の絵に触れてもらえれば説明はいらない。

その姿勢は僕の人生と少しだけ似た臭いがした。

彼は何度も死にたがったようで

彼の最期もその影響によるものだった。

死後も彼の絵は多くの、特に若者に支持されている。

僕もその支持している者のひとりだ。

僕には彼は決して不幸ではなかったように思うんだ。

誠実な結末だと感じるよ。

気の毒だとか可哀想だとか

そう結論づけて片付けたがる人は多いだろうけど

僕は概してそういう人々は傲慢に感じるんだ。

笑っている人は幸せで泣いている人は不幸だなんて

どうしてそんなに簡単に結論づけられるのか

僕にはわからない。

自分に真摯であり続けるということは

時に絶望的な気持ちになることでもあるけれど

そうあり続けたものにしか見れない景色がある。

彼は誤魔化さなかったのさ。

長くなってしまったけれど

近い臭いにどうして惹かれるのだろうか。

それが死んでいようと生きていようと

この気持ちは自分だけではないと安心したいのかしらね。

自分だけであるはずがないだろう。

近しい人々の誰ひとりとして

僕の苦悩に耳をかしてくれても

わかってくれる人がいなかったように

そしてその事が僕の心に諦めと同時に火をつけたように。

僕の本当の気持ちはここから遠くへ旅立つよ。

倒れた心をまた起こして。

幸せなだけの人生なんてちっとも楽しくないからね。

だから君が今完全なる幸福になかったとしても

安心しておくれ。

どんな気持ちも自分から生まれたものは大切にするんだ。

そしてそれを本当にわかってくれる人と共有するために

僕は歩き出すよ。

これを読んでいる君もまた

そういう人のひとりでもあるかもしれないね。

これもこれで楽しんでいこうと思うよ。

どちらにせよ僕らはこれが本望だと思える道を

歩むほかに道はないだろう。

また君に宛てるよ。