あなたは私を呼んだだろうか
私はあなたを呼んでいた
混沌の真ん中であなたを
人混みを抜けた先であなたを
逆風に吹かれるままあなたを
知らない街であなたを
いつも想っている
私たちの間には壁があり
あなたの声は
いつも少し曇って聞こえる
たまに私には聞き取れない
けれど確かに温かい
確かにそこにいる
少しずつ育むこの行為が
私にとっては新鮮であり
腫れ物に触るような気持ちにもさせる
その度に思うんだ
あなたの心はなんて美しいのだろう
私の目にはそう映る
あなたは私の何を知っているだろう
私の底にある憂鬱と情熱に
触れてみたいと思うだろうか
私の心を引きちぎって
あなたに渡したくなる
そしてこの壁の向こうにいるあなたの心を奪い
この心に埋められたなら
今と昔と 隠れた喜びと痛みと
細部まで感じたい あなたの物語を
自分のことのように
けれどどのみち
私は私を生きるしかない
この幸せな事実が
たまに私を複雑な気持ちにもさせる
あなたに何ができるのだろう
何が渡せるのだろう 残せるのだろう
静かに時間は流れている
車道を走る車の音さえ聞こえない
静けさのあるひとりの時間は
まるであなたが隣にいるような時間
耳をすませる
あなたは私を呼ぶだろうか
私はいつもあなたを呼んでいる