「大切なものは増えるのではなく減っていく」
この言葉の意味がわからなかった。
いろんな人と出会うたび、
いろんな経験をするたび、
大切な人や場所が増えていく。
でも今はわかる。
小さい手で抱き締められるものは限られている。
部屋の隅で膝を抱えていた夜に、
その対角に君が同じように膝を抱えていたの知らなかった。
外が白んできて、気づいたんだ。
君はずっと同じ部屋にいたんだ。
朝も昼も夜も目を閉じていた私には見えなかった。
いや、見ようとしなかった。
君は傷口の痛みを悟られないように声を殺して
私をじっと見ていた。
どんなに傷ついても離れずに。
小さな手で抱き締められるものは限られている。
それ以上に人生の終わりには何も持っていけない。
ひとりで終わらせるわけにはいかない。
君の健気な想いに胸がかきむしられるほど私は苦しんだ。
その苦しみが決意に変わり、夜が明けた。
君は無口で、気づいてほしいともいわずにただ耐えていた。
君にも夜明けが近づいてきた。
大切なものはひとつだけあればいい。
君が幸せなら、手にしたものを失ってもいい。
君を人生の終わりまでひとりにさせない。
それ以外の誰かにとっての最悪でも
君にとっての最高ならそれでいい。